【365冊目】有栖川有栖「マジックミラー」
- 作者: 有栖川有栖
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1993/05
- メディア: 文庫
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この作者には珍しい、時刻表が出てくる推理小説。さらに双子の兄弟が登場し、しょっぱなから怪しい密談をしているところが提示され、しかも極め付けに小説内で「アリバイ講義」まで展開される。つまりは、「この小説は双子がキーとなって時刻表を使ったアリバイトリックがありますよ」ということが、ほとんど明示されたところから本書は始まっている。
ところが、さすがというべきか、このトリックがなかなか良くできていて、ここまで手の内を見せられていながら、やはりラストの謎解きでは「してやられた」と思えた。もっとも、面倒くさがりの私としては正直、時刻表トリックは半ば投げ出していて、まともに謎解きなんぞをするより、久しぶりの本格推理小説の雰囲気に浸っていただけなのだが。
ところがそんな横着者には嬉しいセリフが本書には登場する。作中の推理小説家、空知の言葉だ。ちょっと長いが引用する。同じような内容は「アリバイ講義」にも登場するが、ここでは最初のものを。
「神秘と幻想が衰弱した近代に、謎を甦らせようとしたのが推理小説やったんでしょう。近代人に神秘を想わせるために、推理小説は近代精神そのものである合理主義を持ち出した。謎、幻想を合理的に解く。けれど、それは現実の勝利やなくて、『謎はある』という幻想の勝利を目的とするものやったんやと思います。屈折した方法を取ったもんです。━━しかし、そんな屈折の仕方も実際はもう忘れられかけていますね。共犯者、手段として呼び込まれたトリックというのが、期待以上に面白くて、一人で歩き始めたというわけです。幻想小説としての推理小説ではなく、推理小説のための推理小説。推理小説テクノロジーの誕生です。」
そうそう、そうなんだ。大賛成である。しかし私の場合、トリックの面白さもさることながら、やはり「幻想小説としての推理小説」を読むことで、謎によって神秘を感じることを求めているのかもしれない。やはり「謎」だって、それ自体で強烈な魅力を秘めていると思うのだ。