自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【303冊目】神野直彦・池上岳彦編「地方交付税 何が問題か」

地方交付税 何が問題か―財政調整制度の歴史と国際比較

地方交付税 何が問題か―財政調整制度の歴史と国際比較

日本の地方交付税にあたる財政調整制度は、多くの国で存在する。本書は日本における財政調整制度の歴史をアメリカにおける財政調整論とのかかわりの中で振り返るとともに、ドイツ、フランス、スウェーデン、さらにはフィリピンとインドネシアにおける財政調整制度の現状を紹介するというきわめて珍しい本である。

地方交付税については、もともと(補助金と異なり)使途が自由ないわゆる「ヒモなし」のお金であるにもかかわらず、実際には国の政策誘導的な措置が数多く設けられており、事実上の補助金に近い状態になってしまっている。それはすなわち、地方交付税制度が地方間の財政状態の平準化という本来の趣旨から逸脱し、地方の政策を国が誘導するのみならず、かえってマクロ的に見ると地方全体の濫費を促進する構造になってしまっているということである。また、現在のいわゆる三位一体改革では、地方交付税が国の懐事情のためほとんど一方的に削減されるありさまで、構造改革地方分権の美名のもと、実態はかえって地方崩壊の引き金を引いてしまっているのが現状といえよう。本書の前半部分および最終章を読む限り、本書はこうした現状を批判し、本来あるべき適正な財政調整制度のあり方を、各国の姿を参照しつつ考察しているものと言ってよいように思われる。

ただ、諸外国における財政調整制度の紹介が、実はきわめて詳細なものとなっている。それはそれで興味深いものがあり、どの国でも国と地方との関係はいろいろ難しいのだなあ、と思わせられるものもあるのだが、いかんせん細かすぎて、本書の結論部分の地方交付税改革の提言とどこがどうリンクしてくるのか見えにくいのが少々残念であった。各章を異なる執筆者が担当しているため、相互の関連性を確保しづらかったということもあるのだろう。

いずれにせよ、本書の白眉といえるのは最終章における「地方交付税改革のシナリオ」であろう。短い文章ではあるが、地方交付税制度の問題点と解決のアイディアがコンパクトにまとめられている。住民税のフラット化など、中にはすでに実現されているものもあるが、国と地方の関係がどうあるべきかという本質論にまで関わる提言もある。それほど、地方交付税というシステムそのものが、その国における国と地方の関係を集約的に象徴しているのかもしれない。