【281冊目】宮田加久子「きずなをつなぐメディア」
- 作者: 宮田加久子
- 出版社/メーカー: NTT出版
- 発売日: 2005/03
- メディア: 単行本
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インターネット、特にオンライン・コミュニティにおける社会関係資本のあり方を論じた本。
そもそも、本書でも問題提起されているが、インターネットが人間関係に与える影響については、まったく反対の見方が存在している。一方では、インターネットは人間関係を減少させ、利用者はオンライン上の関係に閉じこもり、場合によってはネット上で匿名の反社会的なネットワークを形成する(自殺サイトや「闇の職安」など)とするネガティブな見解があり、ここではインターネットは悪役の扱いである。マスコミやいわゆる「識者」の見方にこうしたものが多いように思われる。
しかしもう一方では、インターネットはむしろ人間関係を広げ、あるいは深めるのに役立ち、オンライン上で築かれた豊かな人間関係はオフラインの実生活上にも波及するという見方がある。これはどちらかというとネットユーザー自身の見方に多く見られ、当事者としての説得力はあるが、やや身びいき的なところも感じられる。本書の著者はどちらかというと後者の見方に立ちながら、研究者としての中立の立場で、客観的なデータに基づいてインターネットと人間関係形成の関連を論じ、インターネットを通じたコミュニティの形成、さらには社会関係資本の蓄積がどのように行われるかを検証している。もっとも、本書ではネット上における社会関係資本の形成の否定的な面についてもきちんと指摘しており、その上で、オンラインのコミュニケーションとオフラインでのコミュニケーションに一定の相関関係があり、オンラインがオフラインに対して補完的な関係にあることを実証するものとなっている。
そもそも、パットナムも指摘しているとおり、昨今のコミュニティの衰退に対する処方箋のひとつが、インターネットにおけるオンライン・コミュニケーションを通した社会関係資本の構築であった。本書はその論点を敷衍しつつ掘り下げ、ネット上とネット外をまたぐ人間関係のあり方を考察している。論調はやや慎重で平板な感じもするが、いろいろと示唆に富むところの多い1冊である。