【275冊目】内村鑑三「代表的日本人」
- 作者: 内村鑑三,鈴木範久
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1995/07/17
- メディア: 文庫
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「西郷隆盛」「上杉鷹山」「二宮尊徳」「中江藤樹」「日蓮」の5人を取り上げ、それぞれの偉業をたたえつつ、その底流に流れる日本的なるもの、その日本の中における異質性と、日本人としての普遍性を探るものとなっている。
もともと本書は、日本と日本人を海外に紹介するため、英語で書かれたものである。そのため、全体的なトーンは日本を持ち上げ、5人の人物を通して、ややもすると後進国として扱われがちであった日本像の再評価を迫るものとなっている。しかし、それだけにとどまらず、本書は日本人に対して、良き日本人とはどういうものかを示し、ひいては当時(初版刊行は1908年−今から丁度100年前!)、圧倒的な西欧化・近代化の波にもまれていた日本人に、日本人として目指すべきひとつの模範を掲げているといえる。むろん、その背景には、内村鑑三自身の「キリスト教信仰」と「日本人」の間での引き裂かれるような葛藤と煩悶があったものと思われる。その中で本書は、日本人としてのあり方を内村自身に示し、一つの答えを自らに与えるものであったのかもしれない。
5人に共通する点は多いが、おそらくその根底にあるのは「正しき道を信じて進んだ」ことと、「徹底してなすべきことをなしとげた」信念の人であったということであるように思われる。中でも一番インパクトがあったのは日蓮上人の章。ここでは、キリスト者としての内村が顔を出し、宗派は異なれど同じ信仰者としての日蓮を強力に擁護する。その情熱の弁は読んでいて胸が熱くなるほどである。また、自治体職員としていえば上杉鷹山と、そして二宮尊徳であろうか。特に尊徳が荒廃した農村を復興するにあたって藩主に行った報告はすばらしい。
金銭を下付したり、税を免除したりする方法では、この困窮を救えないでしょう。まことに救済する秘訣は、彼らに与える金銭的援助をことごとく断ち切ることです。かような援助は、貪欲と怠け癖を引き起こし、しばしば人々の間に争いを起こすものです。荒地は荒地自身のもつ資力によって開発されなければならず、貧困は自力で立ち直らせなくてはなりません。(以下略)
国・地方を問わず、補助金行政に明け暮れるすべての役人が拳拳服膺すべき言葉である。