自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【260冊目】クレイグ・ライス「マローン殺し」

マローン殺し―マローン弁護士の事件簿〈1〉 (創元推理文庫)

マローン殺し―マローン弁護士の事件簿〈1〉 (創元推理文庫)

弁護士マローンが主人公のミステリ10篇をおさめた短編集。

とにかくマローンのキャラクターが面白い。ポーカーと美女が好き、よれよれのスーツとネクタイ、つねに金欠病で、それに何より酒が手離せない。しかし推理力や行動力は抜群で、弁護士としても一流の腕前をもつ。しかも、弁護士のくせに(だからこそ?)遵法精神もあやしいもので、事件に巻き込まれても容疑者(自分の依頼者)の隠匿は当たり前、勝手に死体を移動したり、凶器を隠したりもしてしまう。こんな魅力的な弁護士が主人公だというだけでも、本書を読む甲斐がある。

しかも、どの短編もミステリとして実によくできている。奇怪な事件の発生にマローンが巻き込まれるところからはじまり、登場人物も多からず少なからず、解決はどれも意外であざやか。古典的なミステリの骨法をきちんと踏まえた上で、一級のエンターテインメントとしても楽しめる。特に会話が良い。ユーモラスで温かく、そこに皮肉のスパイスがぴりりと効いた大人の会話。それが、殺人という殺伐とした状況を適度にやわらげて、作品全体にエレガントでスマートな雰囲気を与えている。

あと、マローンの周辺人物も魅力的な人々が勢揃いなのだが、いかんせん「マローンもの」を読むのはこれが初めてだったため、シリーズ特有の「お約束」についていけないのが残念だった(本書の副題が「マローン弁護士の事件簿1」だったのでてっきりシリーズ第1作かと思っていたが、実は長編がいくつか先行していたらしい)。それでも十分ミステリとして楽しめる、古き良き大人のミステリ、とでもいうべき一冊。