【254冊目】貴志祐介「黒い家」
- 作者: 貴志祐介
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 1998/12
- メディア: 文庫
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保険金殺人を扱った第4回日本ホラー小説大賞受賞作。10年前、刊行された単行本をすぐ買って、一気に読み終わって気づくとすでに真夜中。子供みたいで恥ずかしいのだが、あまりの怖さで眠れなくなったのを覚えている。
小説を読んでここまで怖いと思った記憶はちょっとない。しかも描かれているのは徹底して人間の怖さ。金の亡者と言ってしまえば簡単だが、そんな紋切り型の言い方には収まりきらない、人間そのものの中にある深淵と暗黒を覗き込むような怖い小説である。前半はやや謎解きモードで、不審な保険金請求をきっかけに、査定マンの調査から、おぞましい真相がたくみに明らかにされていく。「黒い家」での子供の首吊りシーンがショッキング。しかし本当に怖いのは真相が明らかになった後半。「人間が一番怖い」と言うことは簡単だが、ここまで人間を徹底的に「怖く」描いたところがこの作者の力量だと思う。この小説が怖いのは、人間を単なるモンスターにせず、あくまで人間という枠の中で、誰の心の片隅にもその片鱗が眠っている「人間としての怖さ」を描ききったところではなかろうか。
それにしてもこの頃の日本ホラー小説大賞、この小説の前が瀬名秀明の「パラサイト・イヴ」、後が岩井志麻子の「ぼっけえ、きょうてえ」なのだ。すごいラインナップである。当時に比べ今はどうか、はあえて言いませんが。