【252冊目】山折哲雄「悪と往生」
- 作者: 山折哲雄
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2000/01
- メディア: 新書
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また歎異抄関係。副題は「親鸞を裏切る歎異抄」。親鸞の言行=歎異抄と見るのではなく、むしろその間の「へだたり」を見ることで、歎異抄には書かれていない親鸞の思想を明らかにするとともに歎異抄自体の限界を画そうとするものとなっている。
歎異抄の作者と言われているのが、親鸞の弟子であった唯円。本書もその立場に立ちつつ、唯円を「理論派で分析的」な記述者とみなし、彼によって親鸞の思想が寸断され、聖書にみられるような物語性を奪われていると指摘する。そして、「無上仏」や「海のメタファー」など、唯円が拾い損ねている親鸞の思想のパーツを拾い上げて解説し、本来の親鸞の思想の全体像を描き出そうとしている。
本書を読む限りでは、確かに唯円が親鸞の思想の全てを歎異抄に記しているとはいえないように思われる。ただ、だからといって「唯円は親鸞を裏切ったユダである」とまで言ってしまうと、そこにはどこか飛躍があるような気がしてならない。言葉は悪いが、やや結論先取り的に議論が進むこともあり、どうしてもそこには乗り切れなかった。むしろ個人的な本書の収穫のひとつは、歎異抄が唯円による親鸞思想の「編集物」であり、その著述にあたって各章の配列、内容の粗密、記述の順序など、かなりの意匠が凝らされているという面がかなりはっきりと意識できたことであった。
総じてやや直観的に議論が進む感じはあるものの、親鸞思想に関する記述はさすがに深く、充実している。新書サイズではあるがかなり密度が高く、読み応えのある本であった。