自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【248冊目】モーリス・ルブラン「813」「続813」

813 (新潮文庫―ルパン傑作集)

813 (新潮文庫―ルパン傑作集)

813 (続) (新潮文庫―ルパン傑作集)

813 (続) (新潮文庫―ルパン傑作集)

アルセーヌ・ルパンを初めて読んだのは、ちょうどコナン・ドイルのシャーロック・ホームズものにどっぷりはまっている時期だった。ホームズのある種非人間的な怜悧さと知性に比べ、ルパンがおそろしく活動的でかつ感情豊かで、人間味あふれる存在だったことに戸惑ったのを覚えている。それでも「怪盗紳士ルパン」「奇巌城」「水晶の栓」あたりまでは読んだのだが、「ルパン対ホームズ」で贔屓のホームズがクソミソにやられているのに腹を立て、それ以来なんとなくルパンからは遠ざかってきた。

おかげでこの「813」も今回が初読だったのだが、今まで読まなかったことが悔やまれた。ムチャクチャ面白い。2冊でひとつながりの内容を構成している。大富豪ケッセルバック氏の秘密に迫ろうとしたルパンが何者かに氏を殺害され、さらに立て続けに殺人が起こる。小説の焦点はケッセルバック氏の秘密と、L.M.なる殺人者とルパンの闘争にあるのだが、その中にルパンと警察当局のやり取りやルパンの収監、あっと驚くトリックの数々がちりばめられ、エレガントでエスプリに満ちた目も眩むばかりのルパン・ワールドが展開される。L.M.の正体にも驚いたが、特にぶったまげたのは「813」のほうの最後に披露されたトリック。さすがルパン、脱帽、という感じである。

堀口大學の翻訳も素晴らしい。その言葉遣いを真似るなら、まさに最高かつ不滅のこれは娯楽大作、といったところか。