自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【247冊目】村尾信尚「『行政』を変える!」

「行政」を変える! (講談社現代新書)

「行政」を変える! (講談社現代新書)

この著者の名前は初めて聞いたが、かなり面白い経歴の持ち主である。大蔵省から三重県総務部長に出向して北川正恭知事のもとで県政の改革に携わり、その後大蔵省に戻るものの、二束のわらじで行革推進ネットワーク「WHY NOT」を設立。その後、大蔵省に辞表を出して北川知事退任後の三重県知事選に立候補するも落選。関西学院大学の教授、そしてNEWS ZEROのメインキャスターと、とにかく色とりどり、といった感じ。本書は、こうした著者の経歴をなぞりつつ、行政改革の取り組みを追うものとなっている。

中でも北川県政下の行政改革については、総務部長といういわば改革部門を抱えるリーダーとして、その矢面に立ってきた立場の方だけに、非常にリアルで説得力のある内容となっている。また、参考になったのは、海外出張で学んだニュージーランド、カナダ、イギリスの行政改革の事例紹介。個人的になるほどと思ったのは、カナダの「歳出カットに関する6つのテスト」という方法。「公共性」「公共関与」「公共部門内の役割分担」「民間委託」「効率性」「財源」のフィルターを政府の行う各事業にかけていくのだが、そのメソッドが非常に明快で普遍化されているところが使いやすい。

また、後半部分では何と言っても県知事選挙に臨んでの選挙戦が面白い。徹底して県民との「対話」にこだわり、住民の発案から政策をすくいあげていくプロセスは、まさに県政内部で経験した行政改革の経験が生きたものであり、敗れはしたものの、そのやり方は、新しい時代の政治のスタイルのひとつの形を提示したものといってよいように思われる。また、その中で印象に残ったのは、「官はもう知恵もお金も尽き果てた」という一言。それゆえ、今後は徹底した情報公開のもと、住民自身が公共活動に参画していかなければならなくなるのであり、それによって行政よりむしろ住民の責任が重くなるということになるのだが、行政の限界を実感したこの言葉、大蔵省、県総務部長の経験者のものだけに説得力がある。今の地方、そして日本に対する強烈な危機感と、それに立ち向かうために必要とされる大きな行政と住民の転換の必要性が強く伝わってくる一冊である。