自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【240冊目】山口道昭「自治体実務からみた地方分権と政策法務」

自治体実務からみた地方分権と政策法務

自治体実務からみた地方分権と政策法務

刊行当時、川崎市の職員であった著者の論文類をテーマごとに集成した本。

第1部と第2部は、1999年の地方分権一括法に至るまでの地方分権推進委員会の論議などと平行しつつ、今後の地方分権の展開とそれによって求められる地方自治体の姿を描き出そうと試みるものが多い。新制度の全体像が見えづらく、また議論が非常にスピーディに進む中、懸命にそれに食いつきつつ、自治体現場にその成果を落とし込もうとしており、その奮闘の跡もなまなましいものとなっている。また、制度運用前の議論にもかかわらず、今読んでも違和感のないほど的確な指摘がいくつもなされており、参考になる点が多い。

第3部は政策法務に関する論文、第4部は、主として住民自治の問題に力点を置いた論文類が中心であり、いずれも地方分権改革以前のものである。面白いのは第4部で、川崎市が先進的に取り入れた市民オンブズマン制度に関する「内側からの」記述や、自治体が構築すべき総合苦情処理システムのあり方など、自治体現場ならではの具体的なテーマを掘り下げ、理論構成した論文がずらりと並ぶ。正直、職員としての日常業務をこなしながらこれだけの著述やそれに先立つ調査研究をしているという事実が、まず圧巻である。また、どれも現場サイドから拾い上げてきた問題点を、先行する論考や理論の流れといったいわば学問的な水準に位置づけ、その中で理論構成したものを現場レベルにフィードバックしていくなど、いわば現場と理論とのバランスがとても良い。自治体職員による研究活動という点でもお手本のような論文類である。内容も、現場の事情を踏まえつつ、視点はあくまでも住民側に置かれており、ご自身の所属する川崎市を含め自治体への厳しい提言も多く見られる。

内容にはやや古い点も見られるが、いずれも自治体の現場にいれば意識せざるを得ない問題に正面から取り組んでおり、その姿勢とものの見方、それを支える圧倒的な勉強量には敬服せざるをえない。