自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【235冊目】ヘルマン・ヘッセ「車輪の下」

町の秀才少年ハンスの成長と挫折を描いた名作青春小説。

町を囲む自然の描写が美しい。特にハンスが魚釣りをする川辺のシーンは絶品。その美しさがハンスの望郷の心と重なり合い、陰鬱で抑圧的な神学校の日々とみごとなコントラストを描く。

神学校での友人関係、特に天才的で型破りの少年ハイルナーとの友情、さらに彼と別れた後の「車輪の下」に押し潰されそうな日々。一人の秀才少年の成長と挫折のストーリーの中に、ヘッセは「少年」というものの輝きと悲哀、雄々しさとこっけいさ、友情と残酷さといったエッセンスをすべて詰め込んでみせた。そして、自信と優越感に浸り、町の「一般の人たち」を見下していたハンス(こういう不安定な優越感も少年ならではものである)は、結局神経を病んで神学校を去り、心を癒しつつ自らの選択として、町の機械工となるのである。

そこには、少年が大人になるひとつのプロセスがしっかりと示されている。それは、要するに「見切りをつける」こと、「地に足の着いた選択をする」ことである。しかし、これができずに「かつての秀才少年」「かつてのエリート」のままろくな定職にもつかず(あるいは転職を繰り返しつつ)彷徨している大人が、特に今の日本では恐ろしく多い。10代のころにヘッセを読んでおかなかったのか、読んでも忘れてしまったのだろう。残念なことである。