自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【221冊目】西尾勝「地方分権改革の道筋」

地方分権改革の道筋―自由度の拡大と所掌事務の拡大 (地方自治土曜講座ブックレット)

地方分権改革の道筋―自由度の拡大と所掌事務の拡大 (地方自治土曜講座ブックレット)

地方分権推進委員会の中心的役割を果たし、機関委任事務の廃止を含む地方自治制度の大改正を牽引した著者が、自治体職員を対象に行った講演(地方自治土曜講座)の内容を採録した本。

著者は地方分権改革の成果を「自由度の拡大(関与の縮小)」、「所掌事務の拡大(事務の移管)」に整理して、特に市町村レベルの基礎的自治体にとってそれらがどういう意味をもつか、何が基礎的自治体に期待されているかを語っている。そもそも、地方分権改革は基本的に国をターゲットに行われたものであり、推進委員会はいわば地方の代理人的な役割に立って、国の関与を縮小し、事務をおろすよう働きかけてきた。しかし、改革後の地方の動きは、そうした活動に十分に応えるものではなかった。ほとんどの自治体では依然として通達どおり、従来の国の指導どおりの行政活動に終始しており、得られた自由を活かして独自の政策を考え、実行している自治体は、改革後すでに数年を経た現在でも決して多いとは言えない。こうした多数の自治体の体たらくに対する、改革に携わった者ならではの忸怩たる思いが、あからさまには語られないが、本書からはじんわりと伝わってくる。

もっとも、改革自体も西尾氏が別の本でも語っているように「未完」であり、特に財政面での改革であった三位一体の改革は、相当の進展はあったものの、成果としてはいまひとつのものにとどまっている。その背景には、国の省庁側の権益確保という側面のみならず、自治体側の「補助金がつく事業のほうが予算が通しやすくてラク」といった安直な発想もぬぐいがたく残っている。地方制度改革が単に国の態度の問題というだけでなく、地方自身の態度も問われるものだということを、自治体職員であるわれわれ自身も忘れてはならないように思われる。