自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【191冊目】アナトール・フランス「神々は渇く」

神々は渇く (岩波文庫 赤 543-3)

神々は渇く (岩波文庫 赤 543-3)

フランス革命後の恐怖政治下で、革命裁判所の陪審員となってたくさんの人々をギロチン台に送り込んだひとりの若者を描いた小説。自由と博愛を求めたはずのフランス革命がもっとも陰惨な恐怖政治を招いたのは、それを推進した人々が邪悪であったからではない。むしろ、彼らは「正義」をあまりにも強く、まっすぐ求めすぎてしまったのである。
主人公ガムランは、最初は見ず知らずの他人に一斤しか得られなかったパンの半分を分けるようなやさしい若者なのだが、革命の理想と狭隘な正義感に支配されるあまり、知人や妹の夫までもギロチン台に平然と送り込む「冷血機械」となってしまう。その変貌こそが、この小説のもっとも恐ろしいところであるように思える。そのメンタリティは、ほとんどナチズムスターリニズム下の人々のそれを思わせる。正義の恐怖と人間の闇を描いた名作である。