【179冊目】畑村洋太郎「畑村式「わかる」技術」
- 作者: 畑村洋太郎
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2005/10/19
- メディア: 新書
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「失敗学」などで名高い畑村教授による、「わかる」ための原理と方法論。
著者自身も冗談まじりに指摘しているが、本書はものごとを理解するノウハウを具体的に提供するというよりは、「わかる」とは何か、という原理の部分に重点が置かれている。とはいっても別に脳生理学や認知科学の難しい話が出てくるわけではなく、説明自体は文字通り非常に「わかりやすい」ものとなっている。
その基本となっているのが、人は未知のものごとを理解する時、自分の中にある「テンプレート」と照合して、いわば既知の枠組みをベースとしてわかろうとするという発想である。その中では単に既存のテンプレートに新しい知識を乗せるだけということもあるだろうし、自分で新しいテンプレートを組み立てなければならない場合もあるという。
ほかにも構造的にものごとを理解する方法、上位概念と下位概念のツリーを形成し、立体的にものごとを理解する方法などがコンパクトに紹介されている。また、理解というインプットの側面だけではなく、説明するというアウトプットの場面にも言及され、一見同じような内容や組み立ての話でも、聴き手の反応がまったく違うというケースが例として紹介されている。このケースの場合、話のパーツは同じでも背後に構造が見えるかどうかが重要であり、いわば説明の立体性があるかどうかで、理解の程度や説明の面白さがまったく変わってくるのである。また、図や絵の威力についても強調されており、シンプルで分かりやすいものを使うことで分かりやすさが数倍になるという。
役所でも住民の方や内部に対して、あるいは議会対応などでも、「説明する」ことの重要性はきわめて高い。しかし、説明内容の「正確さ」に心を砕くあまり、「わかりやすさ」は二の次になりやすいきらいがあるのではないか。もちろん正確さは大事だが、同時にわかりやすい説明をするためのノウハウとして、構造を意識した立体的な説明、図やイラストの活用など、本書がヒントになる場面は非常に多いように思われる。