自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【171冊目】D・カーネギー「人を動かす」

人を動かす 新装版

人を動かす 新装版

自己啓発書と言われるジャンルの本があるが、本書はその中でも古典といえる一冊である。

この種の本は日本でもしょっちゅう新刊が出ているが、どうもまともに読み通す気にならないものが多く、読み始めても途中でやめてしまうことが多かった。「自分が得をするために『いい人』になる」という功利的な価値観が剥き出しで迫ってくるのが、鼻について仕方がないのである。そのため本書もなんとなくこれまで敬遠していたのだが、読み始めてすぐ、これまで読みかじってきた凡百の「啓発書」とまるで違うことに気づいた。

書いてある「手段」は同じようなことなのだが、「目標」が、あるいは「目線の高さ」が違うのである。本書の目的は英語の原題にすでに現れている。それは「友を作り」「他人に影響を与える」ことであり、「売り上げが上がる」「契約が取れる」などは(実践の成果として書いてはあるが)あくまでその結果としてついてくる副次的効果なのである。そのスタンスの違いは、はっきりどこかに書いてあるわけではないが、著者の言葉遣いにはっきりと現れている。本書では、うわべだけのお世辞やおためごかし、上っ面だけの対応は注意深く排除されている。それは、単に「相手に気づかれるから」というだけの理由とは思えない。もっとも大切なのは相手を尊重する気持ちのあり方であり、本書で挙げられているさまざまな「秘訣」は、そうした心構えから自然に発露するものにすぎないのである。

また、具体例が豊富に取り上げられている。というより、ほとんど具体例の連発で構成されており、その中から自然と教訓を学び取れるよう配慮されている。そのため、押し付けがましさが少なく、「こうするとより良いでしょう?」という控えめな提案のスタイルとなっている。そのスタンスは、本書でまさに書かれている「強制せず、自然に相手をその気にさせる」テクニックの実践となっている。「不朽の名著」という賛辞も伊達じゃないと思わせられる、非常によくできた実践的啓発書である。