自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【152冊目】中沢新一「愛と経済のロゴス カイエ・ソバージュⅢ」

愛と経済のロゴス カイエ・ソバージュ(3) (講談社選書メチエ)

愛と経済のロゴス カイエ・ソバージュ(3) (講談社選書メチエ)

中沢新一の講義シリーズ第3弾。「贈与と交換」がテーマとなっている。

モノに霊的意味を付与して人々の間を流動させる「贈与」と、貨幣によって数値化され、即物化されたモノによる「交換」を対比し、それに神話的・対称的思考の時代と現代的で非対称的な思考を重ね合わせており、その意味で本書はこれまでの「カイエ・ソバージュ」シリーズをなぞるものとなっている。しかし、著者はそこに「純粋贈与」という第3のカテゴリーを加える。この「純粋贈与」は、単なる贈与とはまったく異なる概念であり、一方的で見返りを求めない(多くは誰が贈与したかも明らかにはされない)ものとされる。いわばそれは「神」のなす贈与であり、自然の大地がなす贈与(農業においては、肥沃なる大地が一方的に食物を生み出し、与える)である。

著者はこの「純粋贈与」「贈与」「交換」の三者について、「小僧の神様」や北欧神話、「ニーベルンゲンの歌」、さらにはマルクスエンゲルスの言説を縦横にたどりつつ、その正体を明らかにしてゆく。そして、この三者を三位一体的なモデルで描き、キリスト教の三位一体説と重ね合わせ、マックス・ウェーバーの「プロテスタンティズムと資本主義の精神」を読み直すようにして、宗教と経済の相似性を解読してみせるのである。

その中でみられる(そして、このシリーズ全体を通しても一貫してみられる)のが、人間と自然とのかかわり方が、自然を畏れ敬いつつその恵みをいただくというスタンスから、強引に資源を引きずり出すようなやり方になってしまっていることへの危機感であり、その結果として、人間自身も幸福感を失い、荒涼たる世界をつくりあげてしまっていることへの問題意識である。いわば本書は、「純粋贈与」「贈与」「交換」の三位一体に基く、するどい文明批評であり、神話的世界から現代への警鐘であるといえる。