hachiroetoのものぐさ遊読帖

自治体職員。仕事は福祉系。読書は雑食系。

【141冊目】平川克美「反戦略的ビジネスのすすめ」

反戦略的ビジネスのすすめ

反戦略的ビジネスのすすめ

タイトルはビジネス書ふうだが、本書は一般的なビジネス関連のノウハウや啓蒙書とはかなり趣を異にする。本書はむしろ、ビジネスというもの自体の本質に切り込むというスタンスで書かれており、「ビジネス思想書」というべき内容をもっている。

一般的なビジネス書の多くが「戦略」「戦術」あるいは「勝ち組」「負け組」など、戦争や勝敗のタームでビジネスを語っているのに対して、本書はまずそうした戦争的・対立的概念からビジネスを切り離そうとする。著者がそこで提示するのは、ビジネスを「交換」「コミュニケーション」ととらえる見方である。それも、ビジネスの場で展開されるのは、「ビジネスマン」と「顧客」が商品を媒介としてつながる「1回半ひねりのコミュニケーション」であるという。

さらに、ビジネスにおいては経営者やサラリーマンといった「役割演技」がなされていること、一定の「ゴール」ではなく「プロセス」自体にビジネスの醍醐味があることなどが、ビジネスというものの本質を照らす中で次々と指摘されていく。さらに「自己実現」の問題や「評価・賃金」の問題など、近年問題となっているビジネス上のさまざまなテーマについて、ビジネスの本質論に立脚した明快なロジックで説明してみせている。その内容は一見意外にも奇妙にも見えるが、考えれば考えるほど筋が通っており、本質的なところを突いている。

巻末に収録された「内田樹君とのビジネスをめぐるダイアローグ」も秀逸。凡百のビジネス書とは正反対の場所からビジネスという存在を照らしたユニークな本である。「交換」「コミュニケーション」という発想は、行政の場面にも当てはまるところが多く、アメリカかぶれの浮ついた議論に首をひねることの多い私は本書の内容にうなずきっぱなしであった。