【85冊目】前田雅英「日本の治安は再生できるか」
- 作者: 前田雅英
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2003/06
- メディア: 新書
- クリック: 1回
- この商品を含むブログ (6件) を見る
ほとんど警察の専管事項のように考えられていた治安問題で、最近はわが自治体も含め、市町村レベルでいろいろな取り組みがなされている。犯罪件数が増加するなか、警察が重大犯罪に重点的に人員を投入するようになり、軽微な犯罪への対応が手薄になっていることから、いわば市町村がその空白部分をフォローせざるをえない形になってしまっているのである。
とはいえ、警察と同じような防犯体制を現在の市町村が取れるはずはない。何より、有形力の行使範囲において警察と市町村では雲泥の差がある。また、個別具体的な治安問題に対応する機動力も、ほとんどの市町村で不足している。そのため、市町村における治安対策(一般には「生活安全対策」というが)の多くは、地域コミュニティを活用した「防犯パトロール」「声かけ運動」、教育現場での「防犯のノウハウ」の伝達、防犯カメラ設置や防犯設備への助成、あるいは学校等の施設へのセキュリティ対策など、一般的かつ予防的なアプローチによらざるをえない。これらももちろん大事な取り組みではあるが、警察がこれまで果たしていた柔軟かつ強制力に裏打ちされた地域防犯活動の穴を埋めるまでには至っていないと思われる。
このあたりの問題へのヒントになるかな、と思って本書を手に取ったのであるが、正直、肩透かしをくらった気分である。本書では、日本の犯罪件数の激増と内容の深刻化を提示したデータをもとに、犯罪件数増加の主要因と考えられる「外国人犯罪」「少年犯罪」について考察しているが、その対応策として挙げられているほとんどは「入国管理の厳正化」「少年への厳罰化」という、いわば締め付けを強くすることで犯罪件数を抑止しようとするものである。
もちろん、こういった対策自体は相当有効であると思う。ただ、気になったのは、「入国管理の適正化を」「少年にも大人と同じ刑罰を」という主張に、あまりためらいのようなものが見られないことである。とってつけたように一定の配慮はしてみせているが、全体のバランスは明らかに「厳罰・厳正化」に傾いている。刑法学者の発想と言ってしまえばそれまでなのかもしれないが(ご存知かと思うが、著者は、刑法学会では結果無価値論の第一人者)、治安のみならず社会全体への影響を考えたときに本当にそれでよいのか、やや不安は残る。