【78冊目】川崎修「アレント 公共性の復権」

- 作者: 川崎修
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2005/04/13
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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20世紀を代表する思想家・政治学者、ハンナ・アレントの思想を解説した本。アレントの著作に基づきつつ、広くその思想を概観している。
最初は全体主義について、19世紀から続くヨーロッパの帝国主義と反ユダヤ主義の流れから、いわばヨーロッパの歴史上の一種の必然としてあらわれたものとして、その由来を読み解いている。次にアレント自身が亡命して身を寄せたアメリカについての論考。ここでは、アメリカとの対比で古代ギリシアのポリスにおける共和制が取り上げられる。ここに限らず、アレントの政治思想において、古代ギリシアの民主制がひとつの理想的な政治形態と見られているようである。そして、後半ではアレントの政治思想の中核ともいえる部分に入っていく。アレントは人間の行為を「労働」「仕事」「活動」に分け、複数人の行為としての「活動」が政治へのコミットとなるとする。その意味するところは、国民各自が自ら主体的に政治にかかわり、「公共性」を担うことが、政治の成立にとって決定的な重要性をもつということだと思われる。
本書は、アレント独自の用語法や発想法をその都度丁寧に解説し、必要に応じて他の思想家の思想にもあたりながら、アレントの思想の全体像を非常に明快に描き出している。難しい部分もあるが、政治をめぐる公共性の問題を正面から追求したアレントの思想について知ることは、現代の政治について考える上で欠かせないと思われる。