自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【60冊目】渋川智明「福祉NPO」

福祉NPO―地域を支える市民起業 (岩波新書)

福祉NPO―地域を支える市民起業 (岩波新書)

書名は「福祉NPO」だが、NPO全般についての基礎的な解説書である。 NPOについては、正直よく知らない点が多かった。ボランティアとも微妙に違うようだし、営利企業とも異なる。町会や自治会などの既存の地縁団体とも違う。しかし、その名称はいろいろなところで目にするし、役割も分野によっては大きいらしい。 この程度の認識しかない私にとって、本書はまさに適切な入門書であった。NPOとは何ぞや、という基礎的な定義なら始まり、さまざまな具体例、NPOを取り巻く法制度や社会的状況がバランスよく記載されている。 どうやら、NPOの態様は千差万別であるが、その共通項のひとつは強い目的指向性というか、町会などの地縁団体と異なり、一定の目的達成それ自体のために結成され、運営されていることのようである。その点で、利益さえ株主に分配できれば基本的に事業内容は問われない営利企業とも異なる。ボランティア活動とは重なり合う部分も多いが、団体というユニットを単位としている点で一線を引きうる。 読後の私のイメージでは、NPOは非常に柔軟で融通無碍であるが、一方で組織としての強度や自立性はやや弱いという印象がある。そのため、うまくツボにはまればきわめて高いレベルで目的を達成できるが、一歩間違うと、行政の都合の良い下請け機関や、独善的ではた迷惑な存在に堕してしまう可能性もある。NPOと行政が適度な距離と緊張関係を保ちつつ協働するにはどうすればよいかが問題であるが、結局のところ、相互に相手の立場を尊重すること、彼我の立場の違いを自覚すること、そして現場での試行錯誤を通じて相互に鍛えあうほかはないのだろう。介護保険というシステムは、その意味で日本のNPO発展の試金石となっているように思える(指定管理者制度もそうかもしれない)。 もうひとつ、今後の課題として考えられるのは、町会・自治会等の地縁団体、あるいは商店会、消防団、民生委員、保護司等、これまで主として地域コミュニティの中で機能してきた団体や個人と、NPOという比較的新しい団体との関係づくりである。経緯としては、地域コミュニティの解体や弱体化に伴う補完的役割としてNPOの台頭が起こったように思われるが、地域によっては、町会等の存在感や組織力は今なお決して小さくない。これまで、両者は基本的に、それぞれに「わが道を行く」がごとく活動してきたが、今後は両者の垣根を低くし、相互に協力し、協働していくこともできるようだろうし、それによってお互いが新たな知見を得、あるいは地域における活動領域を拡大し、相互に活性化することができると思われる。そういうモデルケースは、遠からず日本のどこか(おそらくは地域コミュニティがまだ弱体化していない地方)に登場してくると思う。あるいはもうどこかにそういう萌芽はみられるのかもしれない。