自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【40冊目】田村明「自治体学入門」

自治体学入門 (岩波テキストブックス)

自治体学入門 (岩波テキストブックス)

本書は、「自治体学」の立場から地方自治体の現状と課題を丁寧にまとめたものであり、地方自治にたずさわる者すべてにとっての基礎的テキストというべき内容をもっている。

地方自治の意義や歴史から説き起こし、法、財政、組織論など多面的な視点から「自治体」とは何か、何が求められているかを解き明かすという流れとなっている。その全体に通低していると思われるのは、真の「自治」を実現するためには、国はもとより自治体の職員、議員、あるいは市民に、自治確立のための意欲と意識改革(こう言ってしまうと陳腐だが)、それに基づく行動が求められるということであろう。

個人的に影響を受けた部分も多々あった。特に、自治体職員の役割として、市民、民間の活動のコーディネーターという立場が予想外に重要であるという点、認識を改めさせられた。自治体では政策の立案・実施を基本的に自治体職員が担い、住民はその受け手であり、企業でいえばせいぜい顧客、事業の「ターゲット」の位置にいるにすぎないという意識があったためである。

もちろんそういった「サービス」の視点も重要なのだが、同時に住民を自治体の担い手、行政のパートナーと捉え、彼らを中心的なアクターとして、役所はそのコーディネーターとして黒子に徹するという方法が、これからは重要度を増してくるということのようだ。そしてそれこそが、国においてはなしえない、自治体ならではの、個性豊かな「市民政府」を形成する糸口となり、ひいては、「住民自治」そのものの実現につながるという点で、地方自治体の存在意義に直結してくるのではないか。

むろんそのためには、職員・議員・住民の意識が、いずれも今より一皮もふた皮もむける必要があるのであって、実現までの道のりはだいぶ遠そうだが・・・・・・。本書の役割は、いわばその長い道のりにあって大枠において道を踏み外さないための「道標」といってよいだろう。