【2504冊目】ブレイディみかこ『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』
たいへんよく売れている本。こういう本が売れていることに、今の日本へのかすかな希望を感じる。
ミドルクラスの通うカトリック系小学校から急転直下、格差と貧困の渦巻く「元底辺中学校」に通うことになった著者の息子さんが、本書の主人公。思春期の入口に差し掛かった子供のナイーヴな視点から描き出される、人種差別や格差社会、いじめやLGBTQ。机の上だけの話ではなく、リアルな現実として日々直面しているのは、「多様性」や「ダイバーシティ」そのものだ。
答えのない問いの中でもがき、悩み、大人には考え付かないような見事なやり方で切り抜けていく著者の息子さんには、ただただ感心するばかり。その姿を見守り、時に大人としてのアドバイスを与え、時に一緒になって悩む著者やその夫もすばらしい。
差別も格差も、もちろん日本にもたくさんある。ただ著者たちの暮らすところでは、それがきわめてわかりやすい形で現出しているだけなのだろう。徐々に日本でもその姿を露骨に表しつつある差別や格差に対抗し、キレイごとでないホンモノのダイバーシティを受け止めるにはどうすればよいか。多くの人がこの本を手に取ったのは、そんな切実な関心に「地べた」の視点から答えてくれるからなのだろう。ジョージ・フロイドさんの死をめぐるアメリカの大規模な抗議行動もまた、本書を読んだ後だと見え方がだいぶ変わってくるように思われる。