【2454冊目】山本周五郎『酒みずく・語る事なし』
山本周五郎のエッセイ集。小説はいろいろ読んできたけど、エッセイは初めて。
意外だったのは、けっこう「毒舌」が多いこと。小説のイメージとはかなり違う。でも、いろいろ言いたい放題言っておいて、最後に「失礼いたしました」と書くだけでなんだか許せる気になってしまうのはなぜだろう。
直木賞の断り文も載っているが、これがすばらしい。「私はつねづね各社の編集部や読者や批評家諸氏から、過分な『賞』を頂いていることでもあり、そのほかにいかなる賞もないと考えております」実際、山本周五郎は直木賞に限らず、すべての文学賞を断り続けた。こんな作家が、少し前の日本にいたのである。
小説に対する考え方も、端々に垣間見えて面白い。印象に残ったのは、エッセイではなく対談の中の次のくだり。ちなみに河盛好蔵氏との対談だ。 「僕は、今後僕のような時代小説を書ける作者は出てこないと思いますね。(略)小説というのは人間を描くことで、状況を書くことじゃない。小説というのは、極限されたスペースへ無限大のものを描写することで、テーマに関係ないものは木の葉一枚くわえることはできないんですね」