自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【2374冊目】ピーター・トライアス『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』

 

 

ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン 上 (ハヤカワ文庫SF)

ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン 上 (ハヤカワ文庫SF)

 

 

 

ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン 下 (ハヤカワ文庫SF)

ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン 下 (ハヤカワ文庫SF)

 

 

この表紙を見ただけで湧き上がるある種の期待は、おそらく読後、良い意味で裏切られる。もちろんメカ大暴れ、ガジェット満載の作品なのだが、それだけにはとどまらない。これはディックの『高い城の男』の正統な後継者、堂々たる歴史改変SFなのである。

舞台は「第二次世界大戦で日本が勝利した」もうひとつの1988年。日本統治下のアメリカでは天皇が絶対的な神であり、「反体制的な」思想の持ち主は「特高」や「憲兵」によって取り締まられる。つまり戦時中の日本の状態が、そのまま継続しているのだ。しかし科学技術は実際の1988年よりおそらく進んでおり、「電卓」と呼ばれる高機能のコンピュータや巨大ロボット兵器「メカ」、腕に取り付ける「ガンアーム」まで存在する。

著者は相当な日本オタクらしく、随所に挟まれる日本ネタが読んでいて楽しい。一方、天皇を絶対視した恐怖政治は、実際に戦時中に行われていただけに異様なリアリティがある。ポップでクールな感覚と、集団同調的で抑圧的なメンタリティ。日本人や日本社会のもつ二重性を、著者は実に巧みに小説の中で展開している。自分に自信のないネトウヨ系の狭量な「日本人」の方々は、たぶんこの本を楽しむことはできないと思うが、それ以外の方は、騙されたと思って読んでみてほしい。まっとうなバランス感覚とユーモアセンスがあれば、予想の斜め上を行く満足が得られるコト請け合いだ。

 

 

高い城の男 (ハヤカワ文庫 SF 568)

高い城の男 (ハヤカワ文庫 SF 568)