【2329冊目】アガサ・クリスティー他『厭な物語』

 

厭な物語 (文春文庫)

厭な物語 (文春文庫)

 

 インスタグラムからの転載。ちなみに今気づいたが、「厭」という文字って、ホントに「イヤ」な感じがする。表意文字のパワーだ。

 

さて、今でこそ「イヤミス」なんて言葉もあるが、かつてはこんな小説、異色中の異色だった。救いのない物語。悲惨なラスト。絶望に満ちた読後感。そんなものがもてはやされるなんて、いったい誰が想像しただろう。

だから本書に収録された作品は、有名な作家のものであっても、ほとんどが知られていないものばかり(例外はシャーリイ・ジャクスンの「くじ」とフラナリー・オコナーの「善人はそういない」くらいだろうか)。このアンソロジーのセレクションを誰が担ったのか知らないが、さぞ大変だったことと思う。

それだけに驚かされるのは、ひとつとして「凡作」「駄作」が選ばれていないこと。むしろ、今まで知られていないのが不思議なほど、小説としてよくできている作品ばかりなのだ。しかもラインナップがものすごい。アガサ・クリスティとウラジーミル・ソローキンとフランツ・カフカが同じアンソロジーに入っているなんて、ほかの企画では到底ありえない。

そして、解説の後ろ、最後の最後にフレドリック・ブラウンの「うしろをみるな」(これも知る人ぞ知る作品)を入れるセンスに脱帽。過激一辺倒の最近のイヤミスとは一味違う、丹念で緻密な上質の作品でこそ味わえる「真の厭さ」を、じっくり味わっていただきたい。