自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【2328冊目】デール・ブレデセン『アルツハイマー病 真実と終焉』

 

アルツハイマー病 真実と終焉

アルツハイマー病 真実と終焉 "認知症1150万人"時代の革命的治療プログラム

 

 

アルツハイマー病はもはや「不治の病」ではない! と断言する著者。だが、そのためのハードルは、けっこう高い。う~ん、この手順(プロトコル)を全部こなせる人はいるんだろうか……と思っていたら、人によって必要なプロトコルは違うので、全部必要とは限らないという。ふう、よかった。

というか、私にとって衝撃的だったのは、そもそものアルツハイマー病の原因である。アルツハイマー病は、アミロイドという物質が脳のニューロンのつなぎ目に付着することで起こる。だが、こうしたアミロイドの産生自体がなぜ起きるかというと、実はこれは「脳の防御反応」なのだという。アミロイドは、「炎症」「脳の栄養不足」「有害物質」といった脅威から脳を守るためのものなのだ。

となると、アミロイドそのものをどうこうしようとする以前に、こうした脅威そのものを引き起こさないようにすることこそが、アルツハイマー病の根本的な治療法ということになる。ところがここでやっかいなのが、アルツハイマー病の要因はひとつではない、ということだ。その背後には、なんと36種類もの要因が絡み合っているというのである。

これを著者は「36カ所の穴が開いている屋根」に例える。従来の薬は、これらのうちせいぜい1つを塞ぐ程度の効果しかもたなかった。だから、ある程度の症状の抑制にはつながっても、根本的な改善には至らなかったのだ。著者の提唱する「リコード法」のプロトコルは、さまざまな生活習慣や食習慣の改善に服薬を組み合わせることで、包括的に穴を塞ごうとする。それも、すでに書いたように、その人にとっての要因を徹底的に検査し、それにあわせたオーダーメイドの組み合わせを提供するから、効果が高いのだ。本書では、すでに進行していた認知症状が改善したケース、辞めざるを得なかった仕事に復帰したケースなどが紹介されている。

こう書くと、これが本当ならなんとすばらしい福音か、と思うことだろう。ただ、本書に出てくる「治癒例」の人々がこなしているプロトコルを見ても、果たしてそう言えるだろうか。

例えば、遺伝的な要因で発症リスクの高いジュリーの場合。「朝食は採らず、オーガニックコーヒーを一杯」「ココナッツオイルでオイルプリング(うがい)、フッ素不使用の歯磨き粉で歯磨き」「化粧品や洗面道具はすべて安全性をチェック。日焼け止めとデオドラントはアルミニウム不使用。マニキュアの代わりにココナッツオイル」「荒れ模様の天気でも、毎日欠かさず50~60分のウォーキングかランニング」「一日の最初の食事は夕食から15~16時間空ける」「食事前には室温の水にレモンとショウガを入れて飲む」「昼食は平飼い卵2個、オーガニックで非でんぷん性の野菜(ブロッコリー、ほうれん草、ケール、発酵野菜)を山盛り、エキストラバージンオイルに海藻を加えヒマラヤ塩と季節の新鮮なハーブ、スパイス」……。

この調子でこの倍以上のリストが続くのだが、もういいだろう。これはジュリーのための特別メニューだとしても、一般に「朝食は夕食から12時間空ける」「グルテンと乳製品はなるべく避ける」「加工食品はNG。砂糖も避ける」「魚は必須ではない。大型魚は水銀汚染のリスクがあるため避ける」「肉は味付け程度に」といった具合で、まあ、要するに「そういう食事」が望ましい、ということなのである。

このへんで、私を含め、ついていけない人がたくさん出てくることだろう。まあ、個人的にはある程度いいとこどりでいいんじゃないかと思うのだが、ただし無視できないと思われるのは「以前は稀な病気だったアルツハイマー病の発症率が、最近大幅に上がっている」こと。そこに食事や運動などの現代的な生活習慣がまったく影響していないとすれば、そっちのほうが不自然というものだ。日本でも、認知症患者は2025年に700万人を突破すると言われている。本書の提言以外に選択の余地がないとすれば、国家ぐるみでオーガニック・ライフを送らなければならない時代が、近いうちに来るのかもしれない。