【2324冊目】青山文平『つまをめとらば』
「女は、皆、特別だ」
これは本書の最後に収められた短編「つまをめとらば」の、それもラスト近くに登場するセリフ。全体を通して読み、最後にこのセリフに出会うと、なんだか深く納得してしまうものがある。
「ひともうらやむ」「つゆかせぎ」「乳付」「ひと夏」「逢対」「つまをめとらば」の6篇を収めた、著者の直木賞受賞作だ。共通点は、濃淡の差はあるが、女性の存在が取り上げられていること。時代小説で「女性」がフィーチャーされることは、なくはないが、頻度は決して多くない。描かれていても、現代小説に比べるとどうしても男性の陰に隠れたステレオタイプなキャラクターになりがちで(特に男性作家の場合は顕著で、無意識のマッチョイズムを時代小説の方が出しやすいのでは、と勘繰ってしまうほど)、そういう意味で本書はユニークだ。もちろん当時の時代背景を考えればどうしても制約はでてくるだろうが、本書はむしろその制約を逆手に取っている感じさえする。
それはそれとして、著者の作品を読むのは実は初めてだったのだが、なかなかの手ごたえを感じた。描写は流れるようでありながら肝心の部分は丁寧に描かれ、会話も時代小説としてはきわめて自然。練達の士、というべきか。遅咲きの直木賞であったらしいが(現在70歳)、健康に留意いただき、今後も良い作品を生み出してほしい。