自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【2322冊目】斉藤章佳『万引き依存症』

 

万引き依存症

万引き依存症

 

 

著者は、通院治療で「万引き依存症」の治癒を目指すクリニックに所属するソーシャルワーカー。本書はその膨大な経験に基づき、「万引き依存症」の現状と、回復の可能性をまとめた一冊だ。

言うまでもなく万引きは犯罪である。だが、同時に「依存症」という精神疾患の側面も持っているのが、常習的な万引きの難しいところだ。ちなみに薬物、痴漢などの性犯罪等も、同様に犯罪であると同時に依存症、という二重性をもっている。

犯罪という面だけに着目すれば、刑罰を与える、刑務所に入れるというのが解決策、ということになるのだろう。だが「依存症」だとすれば、刑務所に入れたところで改善はしない。本書によれば、万引き依存症者は万引き行為を引き起こす「トリガー」をそれぞれ持っている。それはスーパーやコンビニといった「場」であることもあるし、夫のギャンブルや夫婦喧嘩などの「家族関係」、あるいは職場のストレスなどであることもある。

いずれにせよ、刑務所内ではそうしたトリガーとなるものがないため万引き行為は起こらないが、釈放されて社会に戻ってくれば、再び多くのトリガーに囲まれた生活を送ることになるから、再犯は時間の問題、ということになる。したがって、万引き依存症には「刑罰」のみならず「治療」が必要なのである。

とはいえ、万引きに限らず、依存症は完全に「治る」ことはない。彼らは「盗まない日」を一日また一日と重ねつつ、生涯これと付き合っていくしかないという。そういえば、アルコール依存症の本で依存症患者を「スルメ」にたとえ、どんなに治療したってスルメが生のイカに戻ることはない、と書いてあったものがあったが、おそらく万引き依存も同じことなのだろう。家族関係が万引きの大きな要因になっていることが多い、という指摘も重要だ。特に「家族を困らせよう」としてやっている万引きは、幼少期に自分が親から受けた行いが遠因になっており、なかなか厄介なのである。

本書は万引きを擁護する内容では決してない。むしろ、万引きを減らすための実効性のある方法を提言している、というべきだろう。とはいえ、万引きをなくす抜本的な方法は存在しない。本書のラストに入っている万引きGメンとの対談で言われているように、発生を未然に防ぐための店舗側の取組みを進めたほうがいいのかもしれない。