自治体職員の読書ノート

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【2282冊目】車谷長吉『車谷長吉の人生相談 人生の救い』

 

車谷長吉の人生相談 人生の救い (朝日文庫)

車谷長吉の人生相談 人生の救い (朝日文庫)

 

 

朝日新聞別刷の人生相談コーナー「悩みのるつぼ」での相談内容を書籍化した一冊。掲載当時から話題になっていた、というか物議を醸していたが、私は、そもそもこの人に「人生相談」コーナーを任せた朝日新聞の度量に驚いた。

例えば「教え子の女子生徒が恋しい」という相談には「女生徒と出来てしまえばいい、自分の生が破綻したときはじめて人間とは何かが見えてくる」。「人の不幸を望んでしまう自分が嫌」という相談には「あなたには一切の救いがない」。「浮気を繰り返す夫にどう接すればよいか」との相談には「一日も早く、夫またはあなたが死ぬしか、手段はありません」。

まさに車谷長吉にしかできない回答、とも思えるが、実はこの回答の仕方、仏教がベースになっている。それも仏教の根本原理である「一切皆苦」が、すべての回答の底に横たわっているのだ。人生は苦である。すべては苦しみである。それこそが仏教の原点であり、ある意味では、人生相談の原点でもあるのだ。

しかもそのことを、単に教理、原理として言っているのではないところが、この人の凄みである。それは車谷長吉自身の苦しみに満ちた人生経験、苦悩と闇の深さから発しているのだ。万城目学が本書の解説で「悩み事という精神の暗き淵から発せられた訴えに対し、さらなる奈落から回答する」と書いているが、まさにそのとおり。だからこそ、その回答を読んでいて、驚くと同時に、どこか深く納得している自分がいる。

大げさに言えば、ブッダが登場した時のインパクトとは、おそらくこういうものだったのではないか。悩みや苦しみを取り除くのではなく、その根っこの部分にまで降りていって、もっと深い人生の本質のところから答えを発する。その意味で、一見型破りには見えるけれども、これこそがホンモノの「人生相談」なのだと思う。