【2281冊目】ピエール・ルメートル『死のドレスを花婿に』

 

死のドレスを花婿に (文春文庫)

死のドレスを花婿に (文春文庫)

 

 

こないだに引き続きルメートル。デビュー2作目、邦訳されている中では最初に書かれた作品だが、すでに「ルメートル節」らしきものが立ち上がっているのが興味深い。

自分が何をしたか覚えてないという経験はあるだろうか。酔っぱらって記憶が飛んでいたりすることはあるが、日常的に身に覚えのない出来事が次々に起こるとなると、こんなに恐ろしいことはない。

本書の主人公ソフィーは、まさにそういうことの繰り返しだった。時折訪れるわずかなフラッシュバック。だがいくらなんでも、気づいたらベビーシッター先の男の子が死んでいて、首に自分のスニーカーの紐が巻き付いているとなると尋常ではない。ソフィーの必死の逃避行が始まるが、名前を変え、素性も隠して生活する中で出会った一人の男に、ソフィーはプロポーズすることになる……

これが第1章。だが、第2章に入るとすぐに、これまで読んだ第1章が全然別の見え方で見えてくる。謎だらけだったソフィーの行動に、思いもかけない方向から光が当たり、読者は腰を抜かすほど驚くことになる。

いやいや、これ以上は書けない。まあ、よくぞこんな設定を思い付き、小説の形に仕上げたものだと、まずそのことに感心する。先日の『悲しみのイレーヌ』のひっくり返し方も見事だったが、本書もそれに匹敵する鮮やかさ。ただし、例によって、読んでいて気分のよい小説ではない。最後はいちおうハッピーエンドめいた形で終わるが、それでも失われた時間、損なわれた人生が、戻ってくるというわけではない。

にもかかわらず、クライマックスに向けて予想外の方向に突進していく第3章、第4章は、そこまでの「溜め」を一挙に爆発させるようで、読んでいてホントに本を置くことができなくなる。後半は一気読み必至。しっかり時間を確保して取り掛かることをおススメする。