【2273冊目】サイ・モンゴメリー『愛しのオクトパス』
「タコ? タコってモンスターなんでしょう?」著者はタコについて話をしたとき、友人にこう言われたそうだ。タコがモンスターとはピンとこないが、西洋ではタコは悪魔の化身として描かれることも多いという。だが本書を読めば、タコの魅力に誰もが夢中になり、モンスターだなんて到底思えなくなるだろう(そして水族館に行きたくなる!)
本書は、ナチュラリストである著者と水族館のタコたちの交流の記録である。タコは5億年ほど前に人類との共通の祖先から分化し、独自の進化プロセスを辿ってきたという。どうやらその結果として、タコは人間とはまったく違った形の知能を発達させ、意識をはぐくんできたようなのだ。
そうでなければ、本書に出てくるタコたちの行動は説明がつかないものばっかりだ。相手の腕を(吸盤で)触ることで人の見分けをつけ、気に入らない相手や遊びたい相手だと水を吹きかける。好奇心のカタマリで、わずかな隙間から外に忍び出し、階段を降りて海に向かう。数カ月前に「触った」だけの相手を覚えていることもあるらしい。
そして、本書の最大の読みどころは、なんといってもタコと著者や水族館スタッフの交流の豊かさだ。アテナ、カーリー、カルマ、オクタヴィア。タコたちはみんな個性的で、頭が良く、人懐っこくてチャーミングなのだ。特に、死期を迎えつつあるオクタヴィアとの別れのシーンは感動的で、思わず相手がタコだということを忘れそうになる。
イヌやネコ、チンパンジー等が相手の交流の記録は多いが、タコが相手というのは前代未聞ではないかと思う。だが、何度も言うが、この本を読めばタコに会いたくなることは保証する。できれば飼いたいくらいなのだが、タコを飼うのはけっこう大変らしいので(それでも世の中にはタコを飼っている人がわんさかいるらしい)
、水族館に走る準備をしてから読まれるとよい。
ちなみに本書に出てくるニューイングランド水族館とそのスタッフたちは、素晴らしい。飼っている動物たちへの愛情とリスペクト、観客を楽しませようとするプロのスピリットをあわせもっている。ぜひ(タコに会うついでに)この水族館にも遊びに行ってみたいものだ。