自治体職員の読書ノート・福祉版

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【2266冊目】イタロ・カルヴィーノ『まっぷたつの子爵』

 

まっぷたつの子爵 (岩波文庫)

まっぷたつの子爵 (岩波文庫)

 

 

トルコ軍との戦いに臨んだ叔父のメダルド子爵は、大砲の直撃をくらってまっぷたつになってしまった。そして故郷に帰ってきたのは、なんとメダルドの右半分だけ。だがこの「右半分」ときたら、とんでもなく悪い奴だったのだ……

人間の善悪が、2つの別々の人格となるような物語はいくつかある。有名なのは『ジキルとハイド』だが、これはひとりの人間の人格が時間によって入れ替わる話。ところが本書のメダルド子爵ときたら、身体そのものが縦半分に両断され、右半分が悪なるメダルド、左半分が善なるメダルドになってしまったのだ。こんな奇想天外、聞いたことがない。

さらに、である。普通の子供むけメルヘンであれば、単に「悪い子爵」がダメで、「善い子爵」ならOK、ということになるのだろうが、これは大人のためのアイロニック・メルヘンなのだから、そんな単純な話にはならない。確かに、やたらに人を処刑する「悪半分」も問題だ。しかし「善半分」のほうもまた、自分の正義を押し付け、人の心までも変えようとするのだ。だから、最初はその善人ぶりを称賛してきた連中も、途中からは困り果ててしまうのである。

悪だけでもダメかもしれないが、善だけなら良い、というワケではないのである。やはり人間は、どちらか半分だけではダメなのだ。そのことがすとんと腑に落ちる、大人のための寓話。