自治体職員の読書ノート

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【2209冊目】大山典宏『隠された貧困』

 

隠された貧困 (扶桑社新書)

隠された貧困 (扶桑社新書)

 

 

「人は、見たくないものを「見なかったことにする」という特技を持っています。親からの支援を受けられずに、自暴自棄になって夜の仕事に走る児童養護施設出身者。いじめをきっかけに薬物に手を出す依存症者。経済的困窮から万引きを繰り返す高齢者。こうした人たちの存在は、人を憂鬱な気分にさせます。本人だけに責任がある訳ではない。社会の矛盾というべき課題があるのも、なんとなくは想像できる。でも、それが今日明日にどうなる訳でもないから、私が考えてもどうしようもないから、だから、目をそらして「なかったこと」「聞かなかったこと」にする」(p.223)

 

本書のタイトルは「隠された貧困」。だが、実は貧困は、隠されているわけではない。上に掲げたように、単に人々が「見ないことにしている」だけなのだ。

そのことを一概に責める気はない。目にした貧困や暴力や虐待をすべて受け止めていたら、たいていの人は精神がもたなくなる。だから、目を伏せるのも、耳を閉ざすのも、まあしょうがないかな、と思えてしまう。

だが、一つだけお願いしたいのは、だったらせめて安易なバッシングはやめてほしい、ということ。生活保護受給者への、無理解に基づく非難。児童養護出身者への、無知に基づく偏見。薬物依存症者への、回復プロセスを知らないがゆえの指弾。それがさらに貧困を再生産し、社会的排除を促進する。

そんなことを言っている私も、薬物依存からの回復プロセスに「薬物の再使用」が組み込まれているのを本書で知った時には驚いた。単に薬物からシャットアウトするのではなく、薬物が手に入る環境に身を置いて、失敗を繰り返しながら、「手に入るけど使わない」ようになるにはどうすればよいかを考えるのが大切なのだという。

自立支援ホームのことも、本書で初めて詳しいところまで知った。義務教育終了後、20歳までの青少年を対象に、生活の場を提供する施設である。児童養護施設を利用できない若者の「駆け込み寺」的存在でもあるという。この施設に居場所を得ることで救われた青少年が、いったいどれほどいることか。

ほかにも高齢者や外国人、ホームレスなどさまざまな人々が登場するが、生活保護のケースワーク経験に裏付けられた貧困の実態や、さまざまな制度に対する洞察は、いちいちうなずかされることばかり。とりわけ、目に見える症状や特性ばかりにとらわれず、相手を常にひとりの人間として人を見つめる視線の温かさは素晴らしい。ケースワーカーとして学ぶべき点の多い一冊であった。