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自治体職員の読書ノート

仕事は福祉系。読書は雑食性。業務連絡はnsa59871atmarkexcite.co.jpへどうぞ。

【2204冊目】白川静『文字講話1』

 

文字講話 I (平凡社ライブラリー)

文字講話 I (平凡社ライブラリー)

 

 

「外国のことを研究する場合には、わが国のことを比較してどうかということが、いつもその根柢にある。そういう意識があって、はじめて問題となりうるのであって、もしそういう問題意識がなくては、研究の対象となりえないのです。わが国のことを考えるがゆえに、その比較の対象として、中国のことを調べるのです」(p.134)

 

1999年から2004年にかけて行われた、白川静・伝説の講義の記録。4冊のうちの1冊目だが、序盤からすでに、その充実度は普通ではない。生涯を学問と読書に捧げてきた学究の中の学究が、その到達点を万人のために示そうとしているのだから、これはまったく、滅多にない一冊なのである。

第1話が「文字以前」から始まるところが、すでに著者の本気度を示している。古代中国の甲骨文字・金文から、時にヒエログリフ、時に万葉集日本書紀と東西を自在に飛び回り、しかも掲げられたテーマの本質に食い込むような議論が展開される。

個人的に面白かったのは、第4章「数について」。ここでは、数の数え方が「対」になっているという指摘が興味深い。例えば「ひとつ」「ふたつ」が一対だというのだが、そもそも「ひとつ」は「ひと」つまり人間に由来するというのがびっくりだ。これが「振ゆ」(振動する→動く、複数的になる)と「ふたつ」になる。これで一対。次は「みっつ」と「むっつ」で、さらに「よっつ」と「やっつ」、「いつつ」と「とを」がそれぞれ対になる。ここまでは倍数関係で、それぞれに語源的な説明があるのだが、長くなるので省略。「ななつ」「ここのつ」は余り物をまとめたような一対だが、これもこれで意味がある。

さらに漢字の「壹(一)」「貮(二)」・・・・・・についても、これはこれでいろいろな意味が込められているのだが、これはぜひ本書を読んでほしい。身近な字や概念であればあるほど、その文字に込められた意味の奥深さには驚かされる。

つまりこの「文字講話」は、単なる文字の解説ではなく、身近で根源的な文字の意味を明らかにしていくことで、実は世界そのもの、人間が世界を理解してきた方法そのものの深奥をあきらかにする一冊(四冊)なのである。