自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【2166冊目】読書猿『アイデア大全』

 

 

これほどの期待感をもって本を読んだのは久しぶり。読後感が、その期待感を大幅に上回ったのは、さらに久しぶり。

サイバー空間の奥に棲む希代の読書家が、ついに本を書いたというのだから、期待が膨らむのもやむをえまい。その内容は、入口はさまざまなアイデア創出術という敷居の低さながら、読み進むほどに、その根っこが古今東西の知脈につながってくるというもの。「実用」と「人文」をつなげた、これまでになかったタイプの本だ。

「しかし人の営みがそうであるように、知とそれを生み出す営みは孤立しては成り立たない」

 
42の「発想法」は、まさに変幻自在の「知のハンドリング」のカタログだ。不愉快なことを書き出す、ひたすら書き続ける、思考の枠組みを壊す、メタファーやアナロジーに遊ぶ……。果ては生命に学び、夢から着想を拾う。まさに思考を裏返し、振り回し、その奥底からまだ見ぬ何者かを引っ張り出すためのメソッドのオンパレード。

特に面白いと感じたのは、「それは、本当は何なのか」と言う問いを重ね続ける破壊力抜群の「P・K・ディックの質問」、シンプルだが応用力の高そうな「さくらんぼ分割法」、アナロジー発想法を極めた「等価変換法」、そして究極の発想法にして世界解読術と思える「カイヨワの〈対角線の科学〉」。ドキッとしたのは「モールスのライバル学習」の中の、次のフレーズ。あらたな発想を生み出すにあたり、一番の味方であって、同時に一番の敵となるのは「自分」なのである。

「自分が大切に思っているもの、今の自分を決定づけた大切な体験など、自分にとって宝物に値するものこそ、我々の発想を制約し枷をはめる」

 
繰り返し読みたい、最高の「実用人文書」。知がつながっているものであり、来歴をもち、実際に役に立ち、未来につながるものであることが、これほど実感できる本はない。