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自治体職員の読書ノート

仕事は福祉系。読書は雑食性。業務連絡はnsa59871atmarkexcite.co.jpへどうぞ。

【2163冊目】ロバート・B・ライシュ『最後の資本主義』

 

最後の資本主義

最後の資本主義

 

 
政府があって、それとは独立して「自由市場」がある。政府は「自由市場」に手を突っ込むのではなく、市場それ自体の原理に任せなければならない・・・・・・

嘘っぱちである。政府とは別個に存在する「自由市場」など、フィクションにすぎない。自由市場とは自然にそのへんから生えてくるようなものではない。それはまぎれもなく、政府が「創造する」ものなのだ。このことが理解できれば、本書の核心をつかみ取ることができる。

問題は「市場原理に任せるかどうか」ではなく、「政府がどういうルールの市場を作るか」なのである。具体的に著者が挙げるのは、自由市場を成り立たせるための5つの要素、すなわち「所有権」「独占」「契約」「破産」「執行」だ。この5つについて政府がルールを定めなければ、自由市場は成立しない。

では、現代の「自由市場」は、いかなるルールに支配されているか。アメリカのそれは一言で言えば、富裕層による、富裕層のためのルールである。企業トップの極端な巨額報酬。大企業に都合の良い貿易のシステム。マネーゲームに狂った金融機関を救済するために巨額の税金を投入する一方、住宅を追い出される人々は救済されない。富裕層や巨大企業は、巨額の資金を投じてロビー活動を行い、その結果さらに富裕層を優遇したルールが作られる。その結果、アメリカでは富裕層の所得は増え続ける一方、労働者の所得は低下を続けてきた。

だが、こんな「資本主義」が長続きするはずはない。中間層が衰退し、購買力が低下すれば、その結果は企業の売上を直撃する。富裕層だけで経済を回すことはできないのだ。したがって、このまま事態が進めば、やってくるのは「資本主義の最後」である。だが、それではいけない。もっと別のルールを市場に適用しなければならない、と著者は主張する。

そのための「処方箋」も、本書では提示されている。驚いたのは、ベーシック・インカムの導入が真正面から論じられていたこと。アメリカでは禁句なのかと思っていたのだが、案外この制度は、共和党を支持する保守層に受けがいいらしい。「ベネフィット・コーポレーション」という、株主だけではなく幅広いステークホルダーを重視する企業の登場にも注目だ。

本書は、富裕層への富の集中が極端に進んだアメリカの状況を説明するもので、その内容がそのまま日本にあてはまるものではない。だが、グローバリズムとはこうしたアメリカ型の市場経済の進出であり、その影響は日本でも、四半期決算や社外取締役の増加、企業トップの高額報酬などにすでに表れている。日本は今後、このままアメリカの後を追って「資本主義の最後」まで突っ走るのか、あるいは中間層に富を還流させる「最後の資本主義」に到達することができるのだろうか?