自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【2161冊目】小澤祥司『ゾンビ・パラサイト』

 

ゾンビ・パラサイト――ホストを操る寄生生物たち (岩波科学ライブラリー)

ゾンビ・パラサイト――ホストを操る寄生生物たち (岩波科学ライブラリー)

 

 
ホラー小説のようなタイトルだが、中身は純然たるライフ・サイエンス。他の生き物の「内部」に棲みつき、宿主を操る寄生生物を扱った一冊だ。

例えば、冬虫夏草菌の一種であるO・ユニラテラリスに感染したアリは、いったん地上に落下したあと地上25センチくらいの高さまで木や草をよじ登り、決まって正午頃に、葉っぱの裏側に大あごで食いついて数時間後に絶命する。地上25センチという場所はちょうど湿度が高く菌の繁殖に適している。葉の裏は菌が成長するための土台となる。すべてはまるで計算づくのように、菌がアリを「操って」いるのである。

寄生生物が、生態系のサイクルの一部を担っているケースもある。ハリガネムシに寄生されたカマドウマは、渓流に自ら飛び込んで「自殺」する。これを魚が食べることで、他の水生昆虫が捕食されず、そのため水生昆虫の餌である藻類が適度に減り、落ち葉の分解も進む。つまりカマドウマの「飛び込み」が森林の生態系と河川の生態系をつないでいるのだ。

まるで「風が吹けば桶屋が儲かる」の世界だが、このような精妙なエコシステムに寄生生物が組み込まれているというのが面白い。一方で気になってくるのが、では人間と寄生生物はどんな関係があるのか、ということだ。この点でびっくりしたのが、ネコを終宿主とするトキソプラズマという原生生物の存在だ。

トキソプラズマはネコの糞便などからヒトに感染し、これまでは妊婦や免疫不全者以外は感染しても危険性はないとされていた。だが本書によれば、最近の研究では、なんと統合失調症患者にトキソプラズマ感染者の比率が高いと言われているという。幼少期にネコを飼っていた場合、青年期に統合失調症双極性障害躁うつ病)を発症する割合が優位に高いという研究があるらしいのだ。

だが、考えてみれば人間だけが寄生生物と無縁でいられるワケはないのである。今はトキソプラズマ程度でも、そのうち突然変異などで、人間を「食う」ゾンビ・パラサイトが出現してもおかしくない。そんなことまで考えてしまう、なかなか刺激的な一冊だった。