自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【2151冊目】宇野重規『保守主義とは何か』

 

 
「保守」があって「革新」がある、のではない。順序からいえば「革新」があって「保守」が生まれたのだ。

保守思想の提唱者エドマンド・バークは、フランス革命を見て保守思想を唱えた。理性に基づく進歩主義の危うさに気づき、社会の変革というものは、過去からの実践の積み重ねによって少しずつ行われるべきものだ、と訴えたのだ。

それはある意味、理性の否定であった。そして、実際にフランス革命は恐怖政治と独裁を生んだ。「理性」に基づく社会変革は、とんでもない結果に終わったのである。ただし、バークが革命の危険性を訴えたのは、それよりずっと前、革命が始まってまだ間もない頃だった。

だが、ここで一つの問題が生じる。保守主義とは「何を保守するのか」という問題である。バークにとっては、それは英国が長年にわたり勝ち取ってきた「自由」であった。だが、その自由を獲得した過程もまた、変革と革命の連続ではなかったか。つまり「保守」の対象は、かつては「革新」だったはずなのだ。

ここでバークが持ち出すのが「時効」という考え方だ。最初は征服によって生じた(つまり、前の国家から暴力的に奪った)統治権であっても、長い年月を経て人々に受け入れられれば、そのことによって正統性を得る。現在とはこうした「時効」(法律的に言えば「取得時効」か)の積み重ねの上に成り立っているのであって、それを一挙に更地にしてしまうような試み(その代表例がフランス革命)は認められない、というのがバークの考え方なのである。

このことは、日本に置き換えて考えてみると興味深い。日本の「保守」が想定しているのは、おそらく明治以降、終戦以前の、ごく短い期間の価値観であると思われる(もっとも、部分的には戦後の高度成長期に生まれた家族モデルが取り込まれている)。一方で、戦後70年が経ち、とっくに「時効」が認められてもおかしくない日本国憲法に基づく価値観は「リベラル」であるとして切り捨てられている。いったい日本の「保守派」の拠って立つ価値とはどこにあるのか。それはバークのような「過去を見直しつつ、少しずつ前に進む」思想なのか、それとも単なる懐古趣味なのか。

革新勢力が弱体化し、保守一強となった現代こそ、「保守主義」の思想の淵源を知る必要がある。本書はバークにはじまり、エリオットやハイエクやオークショット、あるいは丸山眞男福田恆存をめぐりつつ、その本質と展開を総ざらいする一冊だ。丸山眞男?と思われた方もおられるかもしれないが、そうなのだ。丸山眞男こそ、戦後日本の隠れた「保守思想家」のひとりなのである。