自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【2148冊目】井手英策『18歳からの格差論』

 

18歳からの格差論

18歳からの格差論

 

 
著者の主張をわかりやすくまとめた一冊。イラストもふんだんに盛り込まれていてソフトなイメージだが、書かれていることはけっこうヘビーだ。

格差社会はなぜ生まれたのか。それは富の再分配がうまくいっていないからだ。では、そんな社会を誰が作り出したのか。政治家? 官僚? 企業家? いやいや、そうではない。この社会は、私たち自身が生み出したものなのだ。

再分配を行うには、税金を高くして、その税収を福祉や医療に回すしかない。だが、増税をすると選挙に負ける(実際に、消費税率アップをほのめかした民主党の菅政権は、その直後に支持率が急落、選挙に大敗した)。だから「自分が負担に苦しむくらいなら、貧しい人にはあきらめてもらう」という社会が生まれたのだ。

その理屈を正当化するため持ち出されるのが「まず無駄遣いをやめろ」「生活保護の不正受給をなんとかしろ」「公務員を削減しろ」という、いわば「支出を減らして帳尻をあわせろ」という議論である。だが、何が無駄遣いかの判断は人によって大きく違うし、生活保護の不正受給率は全体のわずか0.5%。人口に対する公務員の人数に至っては、日本は先進国で最低レベルである。それに対して、格差是正に必要な財源は兆単位。つまりこんな議論を繰り返しているだけでは、いつになっても格差社会はなくならない。

ではどうすればよいのだろうか。著者の処方箋は、増税を行うとともに、貧困層だけではなく中間所得層にも受益の対象を広げること。所得によって厳しくサービスの支給対象を絞るのではなく、むしろ「受益があるから税を負担しても良い」と思ってもらうことだ。つまり、今の政策とほぼ真逆の発想が、著者の考え方の根底にはあるのである。

もちろん、出てくるのはお金の話だけではない。経済的な格差以外にも、私たちの社会はさまざまなかたちで分断されている。目に見えない「分断線」をどうするか。社会の統合をどのような形でなしとげるか。賛成、反対いずれにせよ、まず知るべき基礎知識をわかりやすくまとめた、まさに18歳にふさわしい、社会の入り口に立った時に読むべき一冊である。