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自治体職員の読書ノート

仕事は福祉系。読書は雑食性。業務連絡はnsa59871atmarkexcite.co.jpへどうぞ。

【2140冊目】宮部みゆき『希望荘』

 

希望荘

希望荘

 

 

前作『ペテロの葬列』がすごく気になる終わり方をした「杉村三郎」シリーズの第4作。典型的な巻き込まれ型の主人公だった杉村が探偵事務所を開業、これまでとは違ったスタンスでさまざまな事件に関わっていく。

「聖域」「希望荘」「砂男」「二重身」の4作が収められている。いちおう短編ということになるのだろうが、一つ一つにかなり読み応えがある。現代の世相を織り交ぜながら進められる謎解きは、決して明るい結末には終わらず、釈然としないモヤモヤを読み手に残す。それは著者自身が感じている、現代社会へのモヤモヤ感を反映しているのかもしれない。例えば都会における近所付き合いの希薄さや隣人への無関心について、著者はこう書く。

「このあたりの人びとが特に冷たいわけではない。息苦しい地縁の束縛を嫌った我々やその上の世代が積極的に望んでつくりあげてきた、これが現代日本の普通の地域社会の姿なのだ。大都市では、その有り様がほぼ完成しているというだけのことだ」(p.62)

 



4篇ともハイクオリティだが、中でも圧倒されたのは「砂男」。『模倣犯』を思わせる「絶対悪」の造形は、その人物が最後まで登場しないだけに、かえって不気味な迫力で忘れがたい。「二重身」は東日本大震災の少し後という設定だが、当時の異常な感覚が読むほどによみがえってくる。すっかり忘れてしまっているが、あれはとんでもない「異常事態」だったのだ。