自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【2134冊目】手塚治虫『MW』

 

 

MW(ムウ) (1) (小学館文庫)

MW(ムウ) (1) (小学館文庫)

 

 

 

MW(ムウ) (2) (小学館文庫)

MW(ムウ) (2) (小学館文庫)

 

 
「ムウ」と読む。かつて某国がある離島に貯蔵していた致死性の毒ガスである。だが漏洩事故が発生し、たまたま洞窟にいた2人の少年を残して、島の住民は全滅した。その2人、銀行マンという表の顔と殺人鬼という裏の顔をもつ結城と、神父であって結城とホモセクシュアルな関係にある賀来が、本書の主人公である。

自らの目的のため平気で人を殺し、拷問する結城のキャラクターが衝撃的。手塚治虫が「悪」をとことんまで突き詰めると、こういうことになるのか、と思わされる。同性愛を大きく取り上げているのも先駆的だ。一方の、結城を善の道に引き戻そうとしつつ、結果的に結城にひきずられて邪悪な計画の手伝いをさせられてしまう賀来は、人間の善性と弱さそのもの。だが読んでいてどうしようもなく惹かれてしまうのは、やはり非人間的な絶対悪の結城のほうなのだ。

某国とは明らかにアメリカで、毒ガス流出の舞台となった沖ノ真船島も沖縄の離島を思わせる。結城をめぐる「個人の悪」の物語の外側に、国家をめぐるもうひとつの「大きな悪」の物語をはめ込んだ、手塚版・18禁・ピカレスクロマン。