自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【2129冊目】山口道昭『福祉行政の基礎』

 

福祉行政の基礎 (地方自治・実務入門シリーズ)

福祉行政の基礎 (地方自治・実務入門シリーズ)

 


有斐閣の「地方自治・実務入門シリーズ」第一弾とのこと。最初に「福祉」をもってくるあたりが、実務目線というか、このシリーズのスタンスを物語っている。

考えてみれば、福祉ほど「法律に基づく行政」が貫徹されている分野は少ない。私が障害福祉分野に異動してきて驚いたことの一つが、福祉サービスの「裁量の狭さ」だ。ケースワークのほうは幅広い裁量の余地がある一方、制度の面はきわめて縛りが多い。もっともその多くは、法律そのものというより、厚生労働省の解釈規定の緻密さによるものなのだが。しかしそれにしても、法律自体もかなり多く、規律されている範囲も広いのではなかろうか。

そのわりに「法に疎い」というか「法に関心がない」人が多いのも、このギョーカイの特徴かもしれない。厚労省のQ&Aにはめっぽう詳しいベテラン職員も、行政法の考え方や基本原理のことになると呆れるほど無知だったりする。法律と条例と要綱の違いをきちんと説明できるケースワーカーが、いったい何割いるだろうか。

本書は「そういう職員」こそ必携の一冊だ。行政法行政学の視点から福祉関係法令や福祉制度に光を当て、丁寧に読み解いた本は、ひょっとすると初めてかもしれない。特にケースワーカーの人は、第8章「社会福祉を支える自治体職員、行政組織」は必読だ。特に次の一節に、私は感銘を受けた。

「行政は縦割りであると一般に理解されている。このことは、国のように大規模な行政組織だけのことでなく、小規模の市町村であっても同様である。そうしたなかで、ケースワーカーは、保護受給者に寄り添うことで、縦割りの行政組織を相手として調整、交渉を行う。このようななかで身につけた能力は実践的であり、その後の職場においても必ず役に立つ。現代の行政は、行政機関内部の閉じられた空間で政策立案や決定がなされるのではなく、住民に開かれた空間で絶えず情報のやりとりをしながら実施されているのである。そして、ケースワーカーは、保護受給者の側に身を置くことで、住民が行政機関をどのように見ているのかを身をもって知ることができる」

 
これは当たっている。というか、ケースワーカーをやっていて思うのは、「普通の職員」がなんと安易に、既存の制度や枠組によりかかって仕事をしているか、ということだ。住民本位の姿勢は、本来ケースワーカーの専売特許ではないはずなのだが。