自治体職員の読書ノート

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【2124冊目】荒俣宏『フリーメイソン』

 

 
フリーメイソン」って、名前を聞くことはあっても、何なのかよくわからない。最近はダン・ブラウンの小説やその映画で出てくるようになったが、詳しいことまではなかなかわからない、というのが、私も含めた大方の人のレベルだろう。

だが、本書を読めばもう大丈夫。なんといってもこれは、現代の博物学者、荒俣宏による縦横無尽のフリーメーソン解読の一冊なのだ。

フリーメイソンには、2つの源流があるという。ひとつは中世以来の石工の組合。石工は古来、巨大な建造物を造る職人であり、幾何学の知識と、石材にサインをつけるためのシンボリックな紋章を使う習慣があった。もうひとつは、「思弁メイソン」と呼ばれる知識人の集団だ。特にフランシス・ベーコンやジョン・ディーによる「薔薇十字の思想」が大きかった。これは人類の叡智を絶対視する思想で、知的な人々の集団が世界をリードすることで、宗教や政治を超克した「友愛国家」が生まれる、というものだ。これは科学を中心とした一種の進歩思想であった。

こうした独特の知識人集団が石工組合に流れ込み、生まれたのが現在のフリーメイソンのルーツであるらしい。本書はさらに、フリーメイソンの変容に光を当て、陰謀論のもとになったフリーメイソンの1セクトイルミナティ」の出現、さらにはアメリカでの独自の受容の過程を追っていく。なんといってもアメリカは、1ドル紙幣にフリーメイソンの影響が噂されているほどの「フリーメイソン国家」なのである。

フリーメイソンをめぐるシンボリズムも興味深い。特に、古代エジプトの神話の影響が面白かった。女神イシスによるオシリスの復活劇を、かの怪人カリオストロ伯爵がフリーメイソンの儀式に取り込んだ。このエジプト神話はギリシア神話にもつながっているとされており、エジプト、ギリシアといった「西洋の知の系譜」が、こうした形であらためて位置づけられたのだ。1ドル紙幣の「噂の部分」も、ピラミッドとその上に輝く「目」であって、エジプト的なルーツをうかがわせる。

本書は、フリーメイソンについて語る一方で、フリーメイソンを軸に西洋の「もうひとつの知」の流れを辿るものとなっており、新書とは思えない「濃い」一冊だ。日本におけるフリーメイソン史も扱われている。それにしても、こういう本を読むと「知識」と「雑学」が地続きのものであることがよく見えてくる。知の幹も枝葉も自在に取り込む懐の深さがないと、こういうテーマはなかなか扱えないのではなかろうか。