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自治体職員の読書ノート

仕事は福祉系。読書は雑食性。業務連絡はnsa59871atmarkexcite.co.jpへどうぞ。

【2122冊目】山尾悠子『夢の遠近法』

謎・恐怖・幻想

 

夢の遠近法 山尾悠子初期作品選

夢の遠近法 山尾悠子初期作品選

 

 

 

増補 夢の遠近法: 初期作品選 (ちくま文庫)

増補 夢の遠近法: 初期作品選 (ちくま文庫)

 

 

私は単行本のほうで読んだが、今から読むなら、文庫で出ている「増補版」のほうがよさそうだ。単行本の収録作品に加えて「パラス・アテネ」「遠近法・補遺」の2作が入っている。

あ、でも「栞」としてくっついていたエッセー集は、単行本のほうにしかないのかな(未確認)。だったらやっぱり、こっちのほうがよい。イナガキタルホ風味のショートコントが入った「頌春館の話」だけで読む価値アリ。なんといっても山尾悠子の世界観は、ポオや澁澤龍彦もさることながら、やはり稲垣足穂の末裔なのだから。あ、それと「ラヴクラフトとその偽作集団」も気になるところ。正直言うと、私がこの本を読もうと思った直接のきっかけは、エッセー集のタイトルに「ラヴクラフト」の文字を見つけたからなのだ。

本書は幻想文学作家・山尾悠子の初期作品集。「伝説の作家」と言われるほどの寡作であるから、初期といってもかなりの作品が収められている。で、最初に出てくるのが実質的な処女作という「夢の棲む街」なのだが、のっけからその完成度の高さに仰天する。わずか20歳で、この完璧な世界観、この絢爛にして無駄のない職人芸的な描写。圧巻である。

「街の噂の運び屋の一人、〈夢喰い虫〉のバクは、その日も徒労のまま劇場の奈落から這い出し、その途中ひどい立ち眩みを起こした」

 


これが一行目。これだけで何か独自の世界が立ち上がってくる。漏斗型の街。その底にある、廃墟となった劇場。鳥籠の中の侏儒。そして謎めいた〈あのかた〉の存在……。

幻想と言っても、何でもあり、ではない。幻想世界には幻想世界なりの線引きがあり、そこを踏み越えるとすべてが台無しになる。澁澤龍彦はそれを「幾何学的精神」と言ったが、本書はまさに幾何学的精神によって規律された幻想世界なのだ。傑作。