【2121冊目】小川三夫・塩野米松『不揃いの木を組む』
伝説の宮大工・西岡常一の「唯一の内弟子」による、仕事論・指導論・教育論。
読むのにずいぶん時間がかかった。このぐらいのページ数なら、たいてい1日もあれば読み切れるのだが、この本はほとんど全部のページに目からウロコのフレーズがあって、いちいち噛んで味わっていたためだ。はっきり言って、そこらのビジネス書100冊が束になってかかっても、この一冊にはかなわない。
例えば、法隆寺の五重塔や薬師寺の東塔は、使われている木の癖がバラバラだという。だから、同じ規格の木を揃えて組むような具合にはいかない。それぞれの木の癖を読み切って、適材適所に組み上げることで、全体として正確なものが仕上がる。そこには計算も何も通用しない。それが1300年間にわたって建っているのである。
人も同じである。それぞれに細かいところを見てアラを探すようではいけない。性格も能力もバラバラな連中を組み合わせて、ひとつのチームとして仕事をしなければならないのだ。4番打者ばかり揃えている某球団や、東大卒のエリートばかり揃えている某官庁に聞かせたい。
「褒める指導が大事」と世間ではよく言われるが、著者は出来上がった仕事を褒めることはないという。「その本人が真剣に仕事をして、やって出来上がったことを褒めてやるなんて失礼」だから、だそうだ。一方、怒る時にはしっかりと怒る。それを怒らないのは、その相手を見捨てているようなものだ。
他にもとにかく、箴言というか、奥義というか、人を育てる上での大事な言葉がびっしり詰まっている。小川棟梁のような人が上司だったら、さぞかしその部下は伸びるだろうと思う。大工や職人だけの世界の話、と思ってはいけない。これはどんな仕事にも通じる「骨法」なのである。その片鱗は、目次をさっと眺めただけでも見えてくる。例えば、こんな感じなのだ。
「三十歳前にどっぷりと仕事に浸れ」
「職人にカリキュラムはない」
「言葉でストレートに教えないわけ」
「他人のことより自分を見つめろ」
「バカ丁寧は丁寧ではない」
「器用は損や」
「生半可な知識は必要ない」
「打った釘は抜くな」
「未熟なときに大きな仕事をまかせる」
「不揃いが総持ちで支え合う」