自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【2111冊目】川村隆彦『ソーシャルワーカーの力量を高める理論・アプローチ』

 

ソーシャルワーカーの力量を高める理論・アプローチ

ソーシャルワーカーの力量を高める理論・アプローチ

 


タイトルからお分かりの通り、完全に「業務用」の一冊。この手の本は読んでもあまりここには取り上げないのだが、本書はとても充実していたので、我慢できず書くことにした。相談業務に携わる人、ケースワーカーは一読して損はない。そういうお仕事とは無関係な方は……また次回の更新のときに、どうぞ。

さて、現場の仕事でもっとも悩ましいことの一つが「理論」と「実践」をどうつなげていくか、ということだ。理論ばかりで頭でっかちになっていても、それが具体的な支援に活かされていなければ意味がない。だが、理論を全然知らないで、自分の経験則や感覚だけで仕事をされたのでは、クライエントはたまったもんじゃない。本書は、理論の説明と具体的なケースへの適用場面を続けて読むことで、両者に橋を架けてくれる一冊なのだ。

本書に出てくるワーカーのやり取りは、それだけさらっと読めば、何ということもない会話にしか見えない。だが、その裏側にはどんな意図があり、思惑があるのかが、その前に「理論」が提示されることによって見えてくる。

例えば、ある問題をどこまで掘り下げるか。原因までさかのぼっていくか、あえて途中で切り上げるか。どこまで耳を傾け、どこからワーカーの意見を伝えるか。さりげない会話が、実はそういった一連の専門性を裏にはらみ、しかもそれを感じさせない。福祉のプロの「会話」とはこういうものか、と思わせられる。

相談業務は、どことなく将棋に似ていると最近思う。複雑に何手も先を読みながら、しかし意識は相手の次の一手に置かれている。同じように、相手の会話にあくまでフォーカスしながら、私たちはその言葉に応じた「返し」を何通りもイメージし、それぞれの先を読んだ上で、その場にもっともふさわしい応答を行う。違うのは、将棋には持ち時間があるが、ワーカーは常に「一分将棋」であるということ。そして、将棋はあくまで自分が勝つことが目的だが、相談業務は、いわば相手に「勝たせる」ことが目標なのだ。

私自身はどうしても「原因」にさかのぼりたくなる思考の癖があるようで、本書のアプローチのいくつかは、そこを早々に切り上げている点が物足りなく思えてしまった。だが、それは私自身の悪癖なのであって、場合によっては原因ではなく、将来の行動に着目するほうが良いこともあるのだ。そして、いずれにせよ最低限の「基礎」となるのは、本書の冒頭に挙げられているクライエント中心型のアプローチ。共感と受容は、やはり相談業務のアルファであってオメガなのだろう。