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自治体職員の読書ノート

仕事は福祉系。読書は雑食性。業務連絡はnsa59871atmarkexcite.co.jpへどうぞ。

【2092冊目】平野啓一郎『マチネの終わりに』

人類・人間・人生

 

マチネの終わりに

マチネの終わりに

 

 

直球の恋愛小説。「芥川賞作家」「純文学」のイメージが強いだけに、こんな小説も書けるのか、と驚いた。

直球だが、安易ではない。恋愛を軸にしながらも、天才ギタリストの蒔野、ジャーナリストの洋子、それぞれの人生の厚みもしっかり描かれている。二人の存在感が際立っているからこそ、その二人が交わす愛もまた、圧倒的な充実を感じられる。

特に、イラクで取材にあたり間一髪で爆弾テロを逃れ、PTSDになってしまう洋子の存在は格別だ。こんな女性がいたら、と本気で思わされた。蒔野もかなりカッコいいが、洋子に比べるといささか見劣りする。経済的にも精神的にも、しっかりと自立した女性である洋子だが、それゆえに結婚がうまくいかず、蒔野も(やむを得ない事情があったにせよ)ほかの女性と結婚されてしまうのは、皮肉というべきなのかどうなのか。

読み終わって考えさせられたのは、蒔野と洋子のすれ違いの原因をつくった三谷という女性のこと。自分がこんなことをされたら絶対に許せないと思ってしまうが、その一方で、三谷の「弱さ」がなんともせつない。そしてまた、その行いを許せないと思ってしまう私自身も、やはり「弱い」人間なのだろう。私が洋子を理想と感じるのは、その「自立した強さ」を、自分にないものとして憧れているだけなのかもしれない。