自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【2090冊目】本田美和子、イヴ・ジネスト、ロゼット・マレスコッティ『ユマニチュード入門』

 

ユマニチュード入門

ユマニチュード入門

 

 
ユマニチュードとは「人間らしさを大事にしたケア」のこと。ケアを行う人は「人間のための獣医」になってはならない、と著者は言う。ユマニチュードは「人間中心のケア」ですら、ない。中心にあるのは「わたしとその人との絆」なのだ。

人間には、生き物として生まれる「第一の誕生」と、人間として認められる「第二の誕生」があるという。だが、寝たきりになり、施設や病院に入り、入浴も排泄も食事も、すべてが「ケア」として行われるようになると、いつしか人がモノのように扱われ、「ケア」を時間内に行うことが最優先になってしまうことがある。それでは、その人は「人間扱いされている」とは言えない。

ユマニチュードは、こうした状況に置かれた人々に対して「第三の誕生」をもたらす方法である。ケアを行う人とケアを受ける人の間に絆を結びなおし、人が人としてケアを受けることができるようになる。そのための方法をイラスト入りでわかりやすく解説したのが本書である。

ユマニチュードを構成するステップは「見る」「話す」「触れる」「立つ」の4つ。これらを徹底的にケアの過程に組み込んでいく。例えば「見る」。ケアの現場の方は「見ないでケアなんてするわけがない」と言われるかもしれない。だが、本当に私たちは相手のことを「見て」いるだろうか? 例えば、壁の方を向いてベッドに寝ている人と目を合わせるために、ベッドを動かして隙間に入り込む、というところまでやっているだろうか? ユマニチュードは、そこまでやるのである。

「話す」も、決して通り一遍ではない。ケアの間じゅう、常に話しかけるのだ。2人でケアを行うのなら、一人が無言で動作に専念し、もう一人が常に話し続ける。いわばケアを「実況中継」するように。相手が無言だろうが関係ない。見ないこと、話さないことは「その人が存在していない」というメッセージなのだから。「触れる」「立つ」も同じで、おそらく普段のケアの場面で想像するものとはだいぶ違っているのではないかと思う。特に「立つ」ことの重要性は何度も強調されている。

私自身はケアの現場にいる人間ではないので、実際にここで書かれていることが現場レベルでどの程度納得されるもので、どの程度意外なものなのか、見当がつかないというのが正直なところである。だが、本書に書かれていることが単にケアの現場だけではなく、人と人が関わるすべての「現場」で大事になってくる、ということはよくわかる。認知症とか自閉症とか、そういう「症状」ではなく、まずは人間を見て、関係を結ぶこと。そこからしか、人と人とが関わる現場は始まらないのである。