自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【2086冊目】施川ユウキ『バーナード嬢曰く』

 

バーナード嬢曰く。 (REXコミックス)

バーナード嬢曰く。 (REXコミックス)

 

 

 

 

 

 

いつも図書室で本を読んでいる……ように見えるが、実は「読書家に見られたい」だけの女、町田さわ子こと「バーナード嬢」。本を読まずに読書家ぶりたい彼女を、最初は笑い、途中から自分の姿を重ね合わせ、最後のほうはむしろ見上げるほどになる。

自分のことを振り返ってみるに、「読書家に見られたいから本を読んでるワケじゃない」と言いつつも、実は自分のどこかで「やっぱり読書家に見られたい」という願望は、間違いなく存在する。「読む」という行為は今読んでいる一冊だけの問題だけど、「読書家かどうか」という評価は、これまで読んできた本のストックにかかってくる。理想的には、人は「今読んでいる一冊」の積み重なりの結果として「読書家」になるワケだが、そのプロセスを飛ばして「読書の蓄積」という結果だけ手に入れたいという虫の良い考えも、まったくわからないわけじゃない。

本書の主人公、バーナード嬢がある意味スゴイのは、そのことを隠さない点だ。私自身はみっともないと思い、ひた隠しにしようとしている願望を、恥ずかしげもなく表に出している。そこがギャグとして面白いところであり、「読書家」志望者としては、笑いを通り越していろいろ考えさせられてしまうのである。極端に言ってしまえば、「本を読む」とはそもそもどういうことか、という深い問いかけに、この本は思いもかけないアングルから強烈なライトを浴びせてくるのだ。

さらに本書は「オモシロ本」「気になる本」の宝庫でもある。古典的な名著からベストセラー本まで(『平家物語』から『KAGEROU』まで)が取り上げられており、特にSF関係が濃い(個人的には、ディックの『ユービック』がすごく気になった)。「ディストピア系の本は黒い表紙が多い」なんて、言われるまで全然気づかなかった。

でも実は、本書を読んで一番笑ったのは、絵本『3匹のやぎのがらがらどん』についてのくだり。電車の中だったのに、腹を抱えて笑いたくなって困った。「(前略)でいよいよ三番目のヤギが出てくるんだけど、そいつがトロールを越える化け物みたいなムッキムキのヤギで、その圧倒的な暴力によってトロールはバラバラにされ殺されちゃうんだ」「三匹のヤギが力を合わせて知恵と勇気で化け物に勝つお話かと思ったら「暴力にはより強い暴力で」っていうあまりにもシビアかつストレートなメッセージを叩きつけられた」……う~ん、確かにそうかも。でも、こんなツッコミをしたのって、この本が初めてでは?

 

ユービック (1978年) (ハヤカワ文庫―SF)

ユービック (1978年) (ハヤカワ文庫―SF)

 

 

 

三びきのやぎのがらがらどん (世界傑作絵本シリーズ)

三びきのやぎのがらがらどん (世界傑作絵本シリーズ)