自治体職員の読書ノート

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【2071冊目】柴崎友香『春の庭』

 

春の庭

春の庭

 

 
2014年の芥川賞受賞作。もう2年前なんですね。

「春の庭」という写真集に惹かれ、撮影が行われた水色の屋根の家にこだわる西という女性。くだんの家の隣にある古いアパートに住む、何事にも面倒くさがりな太郎という男性。物語は主に太郎の視点で進むが、途中で「春の庭」にまつわる西の思いが語られるほか、太郎の姉が突然「わたし」として語り始める部分もあって、やや混然としている。

筋書自体はなんということもない。いろいろ深読みしたくなるようなトピック(太郎が父の骨を砕いたすり鉢と乳棒とか、庭に掘られた大きな穴とか、アパートの部屋が干支の名前になっていることとか)もちりばめられているが、あまり分析しようという気にはならない。むしろ一読者として、筋書きというより小説そのもの、文章そのものを楽しみながら読んだ。

実際、この人の文章は、いい。匂い立つような、というか、五感が刺激されるような、というか。特に情景描写が、一見なんということもないような感じでさらりと書いてあるのだが、実に豊かで、それでいて無駄がない。一方的な描写ではなく、そこに見ている人(主に「太郎」)の感覚が入っているのも、いい。久しぶりに、小説らしい小説を読んだ。それも現代の書き手によって書かれたもの。なんだか、ちょっとうれしい気分になった。